DLTS法の詳細説明

ここでは、DLTS法、ICTS法などのいわゆる過渡分光法における基礎原理について解説しています。DLTS/ICTS法は、深い準位からのキャリア放出過程を試料の接合容量の過渡変化を通してモニターするという点において、基本的には同一の測定原理に基づいています。そのため、以下では、特に両者を比較・対照しない場合は単にDLTSと記載します。

DLTS法は1974年にLang1)によって考案されて以来、さまざまな改良が加えられてきました。ここでは、まず従来法あるいは伝統的DLTS法としてのLangの手法を詳述し、その後、現在に至る技術の流れにも触れます。

測定試料

DLTS法においては、その測定原理上、いわゆる半導体接合(ショットキー、pnあるいはMIS構造)を有する試料を必要とします。したがって、例えばバルク半導体材料中の深い準位を評価する場合には、その表面に金属電極を蒸着するなどしてショットキー接合を、また裏面側にはオーミック電極を形成し、いわばショットキーダイオード構造の試料を作成することになります。試料が、もともとダイオード構造を有しているデバイスであれば、そのまま測定に供することもできます。

測定試料ダイアグラム
容量トランジェットの測定

DLTS法では、試料温度を連続的に変えながら、各温度において容量トランジェント測定を行うことを基本的手法としています。容量トランジエント波形の測定方法は、電圧印加シーケンスと、それに対応する接合容量の変化、および各段階における試料電極近傍でのバンドプロファイルを対応づけて理解することが重要です。

まず最初に、試料には逆バイアス電圧が印加されています。ここに順方向の捕獲パルス電圧が印加されると、バンドプロファイルはほぼフラットバンド状態となり、フェルミ準位の下に位置する電子トラップ準位に電子が捕獲されます。次の瞬間、捕獲パルス印加がオフされると、フェルミ準位より上にあるトラップから電子が伝導帯に放出されていきます。

電子が放出されたトラップは正に帯電するため、その電荷を打ち消すように空乏層幅が減少し、結果として接合容量が増加します。つまり、電子の放出過程が接合容量の変化にそのまま反映されることになります。有限時間の後に電子放出は終了し、系は定常状態に達します。このトランジエント波形の時定数にはトラップパラメータ(準位エネルギー、捕獲断面積)に関する情報が、振幅にはトラップ濃度に関する情報が含まれています。

トラップ濃度 NT が浅いドナー濃度 NS に対して NT < NS の関係を満たすとき、容量トランジェントは指数関数的に変化します。さらに、λ 領域を考慮した場合と考慮しない近似の場合とで、振幅や濃度の扱いが異なります。

図A-2(a) 容量トランジェント測定におけるバイアス電圧シーケンス 図A-2(a) 容量トランジェント測定におけるバイアス電圧シーケンス、図A-2(b) 対応する試料の接合容量変化、図A-3 各段階におけるバンドプロファイル(画像は別途差し替え)
式A-1〜A-5 式(A-1)〜式(A-5)および λ 領域に関する式(画像は別途差し替え)
DLTSスペクトル

LangがDLTS法を考案した1974年当時は、現在のような進んだコンピュータ技術はまだありませんでした。Langらの方法では、トランジエント波形を完全に収録するのではなく、ハード的な手法(ボックス・カー方式)により、二つの時間 t1 および t2 における容量値 C(t1)C(t2) を測定し、その差 S(T)=ΔC(t1)−C(t2) を求めます。

このような測定を低温から高温へ温度を変えながら連続的に行うと、深い準位に捕獲されたキャリアの熱的活性化が開始する温度に達したところで容量トランジエントが顕著に現れます。ある温度 Tmax において S(T) が極大となり、これがDLTSスペクトルのピークとして観測されます。

容量トランジエントの時定数と、ボックス・カー方式で用いる t1t2 との間には一定の関係があり、ピーク温度 Tmax は対象となる深い準位からの電子の熱的放出時定数が、ある特定の値になる温度を表しています。また、この条件から定義される放出速度の逆数はレートウインドウと呼ばれます。

図A-4 Langの手法によるDLTSスペクトル測定原理 図A-4 Langの手法によるDLTSスペクトル測定原理(画像は別途差し替え)
式A-6 時定数とレートウインドウの関係を表す式(画像は別途差し替え)
トラップパラメータ(準位エネルギーと捕獲断面積)の評価

半導体中の深い準位とバンドとの間のキャリアのやり取りは、Shockley-Read-Hall 統計によって記述されます。詳細平衡則から、電子トラップ準位から伝導帯への電子の熱的放出速度は、伝導帯の実効状態密度、捕獲断面積、熱速度、および準位エネルギーにより決まります。

種々の温度において時定数を測定し、その温度依存性を考慮して τT^21/T に対して片対数プロット(アレニウスプロット)することで、その直線の傾きから準位エネルギー、切片から捕獲断面積を求めることができます。厳密にはここで得られるのは有効捕獲断面積であり、準位の縮退度因子を含んだ量です。

また、トラップ濃度は容量トランジェントの振幅から評価されます。λ 領域を考慮した式と、λ 域を無視した近似式の両方が用いられます。したがって、DLTS法によって、深い準位のパラメータ(エネルギーレベル、捕獲断面積)および濃度が測定できます。

ただし、従来の手法では複数のアレニウスプロット点を得るために、異なるレートウインドウでの測定を降温・昇温を伴って繰り返す必要があり、この点が手間のかかる要素でした。

式A-7〜A-13 放出速度、アレニウスプロット、トラップ濃度評価に関する式(画像は別途差し替え)
パルスフィリング法(捕獲断面積の測定)

トラップ準位の捕獲断面積を直接求める方法として、パルスフィリング法があります。捕獲過程において、電子を捕獲するトラップの濃度はパルス幅に対して指数関数的に変化します。種々のパルス幅で容量トランジェントにおける振幅、すなわちトラップ濃度を測定することで、捕獲時定数を求め、さらに捕獲断面積を計算することができます。

一般にトラップのキャリア捕獲速度は放出速度に比べてはるかに速いため、この測定には数十ナノ秒から1マイクロ秒領域の短パルスが必要となります。FT-1030/FT1230では、外付けの高速パルスジェネレータを使用するオプションが利用できます。

式A-14〜A-15 パルスフィリング法の濃度変化および捕獲時定数に関する式(画像は別途差し替え)
改良型DLTS法

深い準位からのキャリア放出に伴う接合容量変化は、実際にはサブfFからpFオーダーのたいへん小さな信号です。そのため、DLTS法では常に微小信号をいかに高いS/N比で効率よく測定するかが重要な課題となってきました。Langのボックス・カー方式は巧妙なアナログ手法でしたが、トランジエント信号の一部しか利用しないため、必ずしも効率的ではありませんでした。

今日では、高性能なパーソナルコンピュータにより、DLTSにおける通常 μs から s の範囲のトランジエント信号を完全にデジタルデータとして収録することが比較的容易になっています。一つのトランジエントデータから、異なる t1t2 の組み合わせ測定をソフト的に行うことができるため、煩雑な繰り返し測定は不要になります。

さらに、DLTSスペクトルのピーク形状は基本的にブロードであるため、準位エネルギーの分解能という観点では従来法には限界がありました。近年はデジタル信号処理技術の発展により、高感度だけでなく高分解能を目指した改良が進み、PhysTech社の装置ではフーリエ変換法、相関関数法、ラプラス変換法、マルチ指数関数フィッティング、ICTS/DLTSスペクトルのデコンボリューションなどの種々の解析が可能になっています。

フーリエ変換式DLTS

DLTSにおける信号処理にフーリエ変換を使う方法は1982年に報告され、特に DLTFS(Deep Level Transient Fourier Spectroscopy)と呼ばれます。この方法では、トランジエントデータから、その温度における放出過程の時定数を直接導出できます。ここでいう「直接」とは、従来のように温度依存スペクトルのピーク位置から間接的に求めるのではないという意味です。

PhysTech社の方法では、まず容量トランジェントにおける測定データを離散フーリエ変換し、その係数を求めます。次に、対象とする深い準位からのキャリア放出機構を仮定し、指数関数的速度過程などに対応する理論的なフーリエ係数を計算します。そして、測定で得られた係数と理論係数を比較することにより、深い準位のパラメータ(活性化エネルギー、捕獲断面積)や準位濃度を導出します。

  1. 容量トランジェントにおける N 個の測定データを離散フーリエ変換し、その係数を求める。
  2. 対象とする深い準位からのキャリア放出機構を仮定し、理論的なフーリエ係数を計算する。
  3. 両者を比較し、式に含まれるパラメータから活性化エネルギー、捕獲断面積、準位濃度を決定する。

フーリエ係数はトランジエントの振幅やオフセットの影響を分離して扱えるため、係数比から時定数を導出できる点が大きな利点です。また、1次と2次の係数を利用して、トランジエントが指数関数的かどうかを評価する指標も導入されています。

式A-16〜A-22 指数関数的時間則、フーリエ係数、係数比による時定数評価の式(画像は別途差し替え)
相関関数法(または、重み関数法))6−8)

相関関数法では、容量トランジエント波形に対して、ある関数(相関関数またはコリレータ)を掛け、その積を測定時間範囲で積分し、さらに時間で規格化するという操作を行います。コリレータとしては、主として積分範囲で時間積分するとゼロになるようなものが選ばれます。ここで得られる量は、Langの方法における二点差分に対応するものとみなすことができます。

たとえば、F(t1)=1F(t2)=-1 というデルタ関数型コリレータを考えると、Langのボックス・カー方式は相関関数法の一種として理解できます。しかし、ボックス・カーコリレータはS/N比の観点では必ずしも良い方法ではありません。より高いS/N比を得るために、方形波関数などを用いる方法が提案されました。

式(A-23)で得られる δC を温度の関数としてプロットしたものが、相関関数法におけるDLTSスペクトルです。スペクトルに現れるピーク位置の温度は、コリレータの種類、TWt0 によって決まる時定数 Tmax に対応します。さらに、各種コリレータを使ったスペクトル比較や、そのピーク位置から得られたデータによるアレニウスプロットも可能です。

図A-5〜A-8 図A-5〜図A-8 Lang法・方形波関数・各種コリレータの比較(画像は別途差し替え)
式A-23〜A-25 相関関数法およびピーク条件に関する式(画像は別途差し替え)
ラプラス変換式DLTS(LDLTS)法)𝟏𝟏,𝟏𝟐)

従来DLTS法の欠点の一つは、エネルギー分解能が十分でないことでした。低温フォトルミネッセンスではシャープな励起子発光線に由来する微細構造が観測されるのに対し、DLTSスペクトルでは概してブロードなピークしか得られず、近接したエネルギー準位を分離することが困難です。ラプラス変換式DLTS(LDLTS)法は、このエネルギー分解能に重点を置いた解析方法です。

LDLTS法では、ICTS法と同様に一定温度下でのトランジエント測定がベースになります。非指数関数性を考慮して、トランジエントを放出速度の連続関数として表し、そのスペクトル密度関数 F(s) を求めます。これは、容量トランジエントの逆ラプラス変換に相当します。

しかし、容量トランジェントから放出速度の分布関数を求める逆ラプラス変換は、数学的には不良設定の逆問題であり、実験データから直ちに一義的な解を得ることはできません。FT1030/FT1230 では、この問題に対して Tikhonov(ティホノフ)の正則化法アルゴリズムをベースとした CONTIN を用いています。正しい解を得るには十分に良好なS/N比が重要であり、近接する二つの準位の時定数比が約2程度の分離には S/N=1000 程度が必要と見積もられています。

この条件は実験的に十分達成可能な範囲であり、従来のボックス・カー方式や方形波関数方式では困難だった近接準位の分離に対して、LDLTS法は非常に有効な手段といえます。

式A-26 放出速度分布関数に基づく表式(画像は別途差し替え)
図A-9 LDLTSスペクトル例 図A-9 水素を含むSi中Auに関係する準位のLDLTSスペクトル例(画像は別途差し替え)
参考文献
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